安易なライセンス商品の作られ方

2011.04.07

ライセンスブランド市場の稼ぎ頭だったディオール、サンロ上フソ、ニナーリッチなどが相次いでライセンス供与を中止した影響で、かつて三兆円以上あった市場規模は年々縮小している。ライセンスビジネスが往時の勢いを失った理由としては、丁寧な製品もある一方で、ブランドイメージをまったく考慮しない乱暴な作りのライセンス品が増えてきたことも一因だろう。ブランドのネームバリューだけでは消費者に通用しなくなったのだ。ここで、ライセンス品がどのようなプロセスで生み出されていくかを見ていきたい。川辺によれば、たとえば、セリーヌのハンカチの場合、まずセリーヌから毎シーズン、イメージマップが川辺に届く。イメージマップといっても非常に漠然としたもので、営業企画第一課長の榊原によれば「非常に抽象的な内容」なのだという。「どんよりとした雲の絵だったり、アフリカの石垣の絵にカラフルな洗濯物が描かれていたり。これを理解して、内部で企画を考えて、具体的にデザインに落とし込んでいきます。非常に感覚的な作業ですね。日本のマーケットに合わせることも必要ですが、『川辺セリーヌ』になってもいけない。ブランドのアイデンティティとのバランス取りが重要です」図案化してブランド側に提示しても、すべて「ダメ出し」されることもあり、OKの返事をもらうまで見直しが繰り返される。了承を得たら生産に取りかかり、晴れて店頭にハンカチが並ぶ。この間、四〜五ヵ月。これなどは、非常に丁寧に作られているライセンス品の例である。しかし、氾濫するライセンス品の中には安易な形で生み出される商品も多い。たとえばメガネだ。メガネ業界に詳しいコンサルタントの村松美尚はこう証言する。「デザイソはライセンシーであるメガネメーカしが作ります。多少、ブランド品ではない普通のメガネとデザインは変えますが、大きくは変えようがないので、うで(耳にかかるツルの部分)をちょっと変えたりするわけです。こうして用意したデザインを、ブランド側に『こんな感じでどうでしょうか』とメーカーが提案に行くと、ほとんどそのまま受け入れますね。中にはうるさく指示を出してくるブランドもありますが、たいがいはいい加減です」ブランド名がついていると、値段は二、三割高くなる。年間のライセンス料はおおよそ二〇〇〇万円。メガネの粗利は非常に高く、通常で七四〜七五%、低価格で人気の三プライスのメガネ店でも六割の粗利は確保できるというから、ブランド側があまり口出しをせず、メーカーがデザインした企画がすんなり通るのであれば、二〇〇〇万円ぐらい安い買い物だと考えているのだろう。だが、メガネをブランド名で指名買いする客はそんなにいるものだろうか。村松の答えはこうだ。「実際には、客がブランド品を目当てにメガネを買いに来るということはあまりないんです。メガネで重要なのはやはり機能。医療用器具ですからね。ただ、売り手側からすれば、『このメガネは○○のブランドだから安心ですよ』『オシャレですよ』といって、高い商品を客に勧めやすい。客の好みなどとはあまり関係ない。付加価値で高く売るためにブランドのライセンスを買っているだけです」もっとも、時代は変わり、日本のメガネメーカーは現在、ブランドライセンスを取れなくなってきている。フランスとイタリアの大手メガネメーカーがブランドのライセンスを買い占めているからだ。ライセンスを失った日本のメガネ業界はどこへ行くのか。村松はいう。「これまで日本のメガネ業界は海外のブランドにあまりにも頼り過ぎていた。今は、個性的なデザインでブランド価値を高めている国内メーカーも出現しています。メガネ業界も、デザインや自社ブランドについて見直す時期に来ているのでしょう」他の分野でも、メガネに負けず劣らず、お手軽なライセンス品が氾濫している。ある寝装品メーカー関係者は打ち明ける。「厳しくデザインをチェックするブランドもないではないが、チェックがまったくなく、シーツにロゴを刺繍するだけでOK、というブランドもあります」ブランドイメージを失墜させるのは、ライセンシーだけではない。しっかりとブランド管理を行わないライセソサー側の責任も大きい。ブランドは最終的にはイメージが勝負だ。そのイメージをないがしろにしてきたツケが今自分に返ってきているのではないだろうか。さらにいえば、ブランドらしさの片鱗もない、ロゴが入っているだけのライセンス品を買いまくっていた消費者も、ブランドのイメージダウンの共犯者といえる。商品が売れなければ、ライセンスだからだ。