果たして私は良い医者なのか。答えは明らかに否である。めまい、のぼせ、肩こりなどのいわゆる不定愁訴の患者が来ると、こちらまで具合が悪くなり、長くその訴えを聞いていられなくなる。自分の健康のことしか頭にない老人患者が嫌いである。その他、様々な問題点を抱え込んだ医者として今日まで来た。ただ、癌の末期医療にだけは真剣に取り組んできたつもりである。人は必ず死ぬ。医者になってから身に付けた知識の中で、これほど強いインパクトを与えてくれた事実はなかった。どんな名医の治療の下にあっても死ぬ人は死ぬ。それならば、できるだけ安らかに、家族にも納得してもらえるような死をむかえてもらおう。いつの頃からか、私はそういうことだけを考える医者になっていた。